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東京地方裁判所 昭和39年(ワ)2362号 判決 1965年4月14日

被告 第一信用金庫

理由

一、訴外会社が被告に対し、原告主張のような定期預金債権をもつていたこと及び訴外会社が被告に対し、昭和三八年一〇月二四日被告到達の書面をもつて、右債権譲渡の通知をなしたことは当事者間に争がない。しかして、(証拠)によると、訴外会社は同年一〇月二二日被告に対する右定期預金及び他の二口の預金合計金一九三万円の債権を原告に譲渡したことが認められる。

二、(証拠)によると、参加人は訴外会社に対し、参加人主張のような約束手形金五二万円の債権を有し、右手形につき勝訴の確定判決(当庁同年(ワ)第九一〇四号)を得ていたことが認められる。しかして、参加人が右手形債権に基き訴外会社の被告に対する前記定期預金債権等の仮差押をなし、右仮差押決定は同年一一月五日第三債務者被告に送達されたこと、次いで右確定判決により同一当事者間に債権差押及び転付命令が発せられ、右命令が同年一二月二六日第三債務者被告にまた一二月二七日債務者訴外会社に送達されたことは、いずれも当事者間に争がない。

してみると、本件定期預金の譲受債権者原告は、参加人の得た右債権仮差押、債権差押及び転付命令が被告及び訴外会社に送達される以前に、訴外会社より被告に対し債権譲渡の通知がなされており、さきに債権譲渡につき対抗要件を具備していることになるので、右譲渡通知をもつて転付債権者である参加人に対抗できるものというべきである。

三、ところで、参加人は、右訴外会社のした債権譲渡が虚偽表示によるものである旨主張するので、この点につき検討する。(証拠)によると、訴外会社は、前記約束手形を受取人日本冷却塔株式会社の契約不履行を理由に支払拒絶し、右手形につき不渡処分を免れるため、異議の申立をなし、東京手形交換所に提供する目的で支払銀行被告に対し、手形金額を預託していたが、同年一〇月二二日ころ右預託金の払戻を受けてしまつたこと、参加人は、訴外会社が右預託金の払戻を受けた後である同月二九日訴外会社の右預託金返還請求権を仮差押したが、執行不能に帰したことが認められるけれども、他に参加人主張の事実を認めるに足りる証拠はない。のみならず、訴外会社が原告に右債権譲渡するに至つた経緯は後記認定のとおりであることが認められる。したがつて、参加人の右主張は理由がない。

四、参加人は、訴外会社のした右債権譲渡行為が詐害行為となる旨主張するので、さらにこの点につきしらべてみる。証人鯉淵真平の証言によると、訴外会社が原告に対し、本件定期預金債権等を譲渡した当時、訴外会社は右債権以外他に財産がなく、同年一一月初旬手形不渡処分を受け、倒産当時約二千万円の負債があつたことが認められるけれども、(証拠)を併せ考えると、原告は、訴外会社に対し、その営業資金として同年三月一〇日ころ金五〇万円、同年四月五日金二〇万円、同年五月五日金三〇万円、同年六月二日金三五万円、同年七月一〇日金二〇万円、同年八月三日金二五万円を融資していたが、同年九月一日さらに金一五万円を貸付けることとし、右合計金一九五万円の貸金債権支払のため訴外鯉淵真平振出、訴外会社裏書にかかる金額金二〇〇万円の約束手形一通の交付を受け、同年九月五日右金一五万円を交付したこと、訴外会社は、右借受当初より原告に対し、右借入金の確実な担保として被告に対する定期預金を差入れる旨約束していたので、同年一〇月二二日訴外会社は右約束に従い被告に対する本件定期預金を含めて四口の定期預金合計金一九三万円の債権を原告に譲渡したこと、しかして、原告は、右債権を行使してすでに被告より右譲受債権のうち金一三六万円の支払を得て右貸金債権の弁済に充当していることが認められ、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

およそ、債権譲渡が譲渡債権額相当の実質的対価をもつてなされた場合には、債務者の資産にはなんら増減を生じないから、特段の事情のない限り詐害行為にはならないものと解すべきところ、これを本件についてみるに、前記認定のように訴外会社は、原告に対する合計金一九五万円の借入金債務担保のため(譲渡担保として)、被告に対する本件定期預金等合計金一九三万円の債権を譲渡したものであるから、借入金債務の弁済と同じくこれにより訴外会社の一般財産は減少しないので、債権者である参加人を害することにはならないものというべきである。したがつて、参加人の予備的主張もまた理由がない。

五、以上により、参加人のために被告を第三債務者として本件定期預金債権につき発せられた債権仮差押、債権差押及び転付命令は、すでに債務者訴外会社が原告に債権譲渡した後(債権譲渡がすでに内容証明郵便によつて第三債務者被告に通知することにより対抗要件を具えていることは、二で説示したとおりである。)、不存在の債権につきなされたものであるから、支払禁止及び転付の効力を生じないことは明らかである。結局、本件定期預金債権は、譲受債権者である原告に帰属するものというべく、被告は、参加人のためになされた右仮差押、差押及び転付命令の外形的存在をもつて、原告に対する右預金の支払を拒絶できない。したがつて、この点に関する被告の主張は失当であるので排斤を免れない。

よつて、原告の被告に対する請求は正当として認容すべきであるが、参加人の請求は全部失当であるのでこれを棄却……。

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